故 幸宣佳先生との思い出…。

日常の中での修行

幸先生のお宅にはいつも大勢の方がいらっしゃいました。

そして皆さんをお世話することも私の仕事でした。

お食事の時は、特に大忙しです。

ご飯を盛ったり、お茶を出したり…

皆さんにお給仕するだけではなく、自分もその場に座り、一緒にいただかなくてはなりません。

しかもお行儀よく食べないと、先生の奥様から怒りの言葉が飛んできます。

お箸の持ちかたはもちろん、犬食いはダメ。

汚い食べ方もダメ。

ネコまんまもダメ。

お行儀よく、上品に急いで食べないとなりません。

 

特に幸先生がお食事をされているときは、気が抜けません。

幸先生がご飯を食べおわる頃に、もう1膳お注ぎする。

このタイミングが難しいのです。

先生が召し上がっている頃合いを見計らいながら、私は食事をしていきます。

 

幸先生の舞台に付いて行くときも同じです。

先生は絶対に人様の前でご自分の肌を見せません。

だから楽屋でお着物を着替えられるときも、順番があり、手順があり、それをきちんと踏んでいくことで、人様に自分の肌を見せずに着替えられます。

この時に、先生が必要なものを必要なタイミングで手渡さないとなりません。

「清一、よこせ」

などとは、全くおっしゃいません。

手が出てくるだけです。

その手が出るタイミングで、先生が必要な物をお渡ししなくてはなりません。

先生の手を待たせることはしてはいけません。

先生の所作、タイミングを見計らって…

タイミングを逸してはいけません。

そして先生が欲しているものもきちんと理解していないといけません。

もし間違えた物を渡すと、先生の着替えの流れを止めてしまいます。

 

これらのことは、今の私の舞台にも大きく影響しています。

周囲に目を配り、見計らう事…

そして、タイミングを逸しないこと…

 

舞台は一人ではできません。

色々な方々との協働作業です。

その中での人との関わり方は、幸先生との日常からで学んだ見計らうことが多いに役立っていることは間違いないと思っています。